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ひかりあういのち
光り合ういのち
倉田 百三
「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页
父は心が動いて、三次へ出て来て、私をつれて校長さんの宅へ逢いに行った。
「哲学とはどんな学問でございましょうか」
無学な父がこう訊くと、校長さんは頭を捻って私の顔を見た。私も校長の答えを待ちもうけた。
「まあ、一口に言えば心の学問ですな。そういうより言い方がありません」
「ははあ」
と言って父は考えていた。
こんな答えが父を満足さす筈はなかった。しかし校長さんが折紙をつけて下さった事が、父の決意を促がしたのは確かであった。
この校長は教育者として決して恰好でない人ではなかった。偉大な人ではないが、自由な、一般的な教養の雰囲気を以て生徒たちを啓蒙した。学術の世界の外にカルチュアというものの世界のあることを生徒たちに教えた。それは校長として一番大事な任務であろう。
この校長は又それぞれの違った個性の生徒への愛と理解を持っていた。
「水野は学問は出来ないが、あれでラケットを持ってテニスコートに立つと威厳が付いて見えるね。ひどいものだ」
こう言った校長さんには子弟への愛が自然と出ていた。水野というのはテニスの選手だが、ドンキーという仇名がついていて、いくら勉強しても成績が上らぬので軽蔑されてる生徒であった。