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ひかりあういのち

光り合ういのち

倉田 百三

「いのち」1937(昭和12)年2月号から連載

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 130,439 字 · 263 页

青空文庫

柏原という卒業生の非常な秀才が海軍兵学校に入学していたのが、急性肺炎で亡くなったと聞くと、校長は、がっかりしたように、

「惜しいことだ。宝息子を無くしたような気がする」

と言って嘆じた。

又温泉津という石見の海岸に、海水浴に行った時、宮田という一年生の少年が、舟から飛び込んだり、上ったりして真黒な体ではしっこく泳ぐのを、いかにも可愛いと言った調子で、

「泳ぐこと、泳ぐこと、まるで河童のようだ」

と言ってニコニコして見ていた顔。

又笠間という不良じみた生徒を母親からたのまれて、あずかりながら、

「お母さんがあれだからいかん」

と言いつつも、裁く気持ちでもなく母の溺愛を肯定してる気もち、色々とそうした印象は私の記憶に残されていた。

子弟へのやさしき愛と理解とはなつかしくこの校長を思い出させる。私は温泉津の海水浴の時漁船を傭って私たちと沖に漕ぎ出し、扇で舷をたたいて赤壁之賦を口ずさんでいられたこの善良な校長が目に浮んで来る。

まずやさしくあれ! 優しさは金で、威厳は銀だ。やさしくなくては内面のつながりにならぬ。思い出に浮ばぬ。

今日校長と生徒主事には子弟と手をとり合って語ることを本能的に好まぬ人たちがどんなに多いであろう。