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いりえのほとり
入江のほとり
正宗 白鳥
「太陽」1915(大正4)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,430 字 · 50 页
「死んだってかまわん覚悟をしとるんだもの……」
勝代は負けぬ気でそう言って口を噤んだが、ふと不安の思いが萌して顔が曇ってきた。良吉も話を外して、小さい弟をあやしなどした。
そこへ晩餐の報告が階下から聞えたので、皆なドヤドヤと下りて行ったが、勝代は一人後へ残って、二三度母の呼びたてる声を聞いてから、ようよう炬燵を離れた。机の上の絵葉書帖に兄の絵葉書を挿んだ。そして、目を顰めて、夕月の寒そうに冴えている空を仰ぎながら、雨戸を鎖して階下へ下りた。釣ランプを取囲んで、老幼取まぜて十人もの家族が騒々しく食事をしていた。勝代は空いた席へ割りこんで、独り生冷たい煮返しに柔かい菜浸しを添えて、まずい思いをして箸を執った。
ほかの者の膳には酢味噌の飯蛸や海鼠などがつけられていて、大きな飯櫃の山がみるみる崩されていた。
隣村まで来ている電灯が、いよいよ月末にはこの村へも引かれることに極ったという噂が誰かの口から出て、一村の使用数や石油との経費の相違などが話の種になっていた。電灯を見たことのない子供たちは、いろいろに想像しては喜んでいた。良吉はメートルとかスヰッチとかタングステンとか洋語を持ちだして電灯の講釈をしだした。