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いりえのほとり

入江のほとり

正宗 白鳥

「太陽」1915(大正4)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,430 字 · 50 页

青空文庫

栄一は深入りして弟の計画の底を叩こうとはしなかったが、才次は平生胸の中にもだもだしている不満な思いを兄にこそ洩らし栄がするように感じて、何かと問わず語りをした。かなりの財産のある家から良吉を養子に欲しいと申しこんできているのだから、早くその話を極めて家の負担を減らした方がいい、わずかな財産の分配をされるよりは当人のためにもいいと言ったり、もしも夫婦養子の口があれば、才次自身たいていな家なら我慢して行ってやるつもりだ、こんなにぐずぐずして歳を取っているよりはましだからと言ったりした。弟や妹が自分の知らない英語ばかりこそこそ勉強しているのを彼れはさも目障りでならぬといったような口調で話した。

しばらく黙って聞いていた栄一は、「だけど、辰男が英語を楽みにして、一生通せるのなら、好きなようにさせといたらいいじゃないか。傍の者へ迷惑を掛けないのだから」と弁護するように言った。

「さしあたって迷惑は掛けんが、しかし、家族の一人として毎日同じ飯櫃の飯を食うとると、自然に傍の者の気を悪うすることがあるんじゃ。白痴でも狂人でもないんじゃから、ほかの兄弟並に扱わにゃならんし、なおさら始末に困るが、どうも不思議な人間じゃ」