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しょや

初夜

山本 周五郎

「週刊朝日春季増刊号」朝日新聞社、1954(昭和29)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,384 字 · 35 页

青空文庫

久良馬はそのあいだに奥へ入って白装束に着替え、髪を水で結い直して戻った。……代二郎たち三人は、隣りの六帖に坐って見ていた。久良馬が置き畳の上に直ると、妻のいつきが短刀をのせた三方を捧げて来た。そのあとから三歳になる市松が(召使たちがみんな立退いたからだろう)吃驚したような顔でついて来、母親といっしょに、久良馬の前へちょこんと坐った。

母子は簡単な別れの言葉を述べて、すぐに奥へ去った。代二郎はいつきが男まさりで、気の勝った性分だということをよく知っている。また今日は親子もろとも死ぬ覚悟で、もう水盃なども済ましていたのかもしれないが、それにしてもその別れようはあまりにみれんげがなく、あまりに凛として非情にさえみえた。代二郎は丸茂にめくばせをした。源吾は頷いて、母子のあとを追ってゆき、板土と久保がこちらの六帖へ来て坐った。

代二郎はまだ黙っていた。奥のほうで人の出てゆく物音がし、それが聞えなくなると、家の中は急にひっそりと鎮まった。そのとき、井関藤也がまた震えだした。急にひろがった沈黙のなかに、再び危険を感じたのであろう、代二郎には彼の震えだすのがはっきりわかった。