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こくこく
刻々
宮本 百合子
「中央公論」1951(昭和26)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 36,401 字 · 73 页
ドアのところで、咳払いがする。自分は母のそばをはなれながら、猶、じっと目を放さず、
「わかった?」
母親は、むっとした顔でそっぽを向き瞬きを繁くしている。――
やがて袖をさぐってハンケチを出しながら泣き出した。しかしそれは、自分がわるかったとさとって流している涙でないことは、犇と私に分るのであった。
母親が帰ってゆくと、
「暫くこっちで休んで」
と、主任が呼んだ。
「どうでした?」
「ふむ」
「……ふむ、じゃ分らないじゃないですか」
「…………」
不図見ると、検閲の机の上に「プロレタリア文学」六月号が一冊のっている。自分はあつい掌でそれをとり頁をくった。第五回大会の写真がある。うすい写真の中でも、同志江口が白いカラーをはっきりと、いつもの少し体をねじったような姿勢で壇上に立っているところがある。押し合う会集。「暴圧の意義及びそれに対する逆襲を我々はいかに組織すべきか」という巻頭論文がのっている。貪るように読んだ。同志蔵原をはじめ、多くの同志たちの不撓の闘争が語られてある。その中に自分の名も加わっている。読んでいるうちに覚えず涙がこぼれそうになった。このような涙を見せてやるのは勿体ない。