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ばけいちょう
化銀杏
泉 鏡花
「文芸倶楽部」1896(明治29)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,197 字 · 54 页
で、二階へ来いとおいいだから、そっと上ると、まあ、おとしよりが御深切に、胸を押して下すったので、私ゃもう難有くッて、嬉しくッて、心じゃ手を合せて拝んだわ。
おかげでやっと胸が開きそうになって、ほっと呼吸をついた処へ、
(貞はそこに参っておりましょうな。)と、壇階子の下へ来て、わざわざ旦那が呼んだじゃあないかね。
私ゃあんまりくさくさしたから、返事もしないで黙っていると、おばあさんがお聞きつけなすッて、
(階下へおいで、ね、ね、そうしないと悪い)ッて、みんなもうちゃんと推量して、やさしく言って下さるんだもの。
(ここに居とうございます!)と、おばあ様の膝に縋りついたの。
下ではなお呼ぶもんだから、おばあさんが私のかわりに返事をなすって、
(可いから、可いから。)と、低声でおっしゃってね、背を撫でて下さるもんだから、仕方なしに下りて行くと、お客はもう帰っていてね、嫌な眼で睨まれたよ。
空いてる室がないもんだから、そういう時には困っちまう。アレ悪く取っちゃあ困るわね。
何も芳さんに二階を貸しておいて、こういっちゃあわるいけれど、はじめッからこの家は嫌いなの。
水は悪いし、流元なんざ湿地で、いつでもじくじくして、心持が悪いっちゃあない。