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ばけいちょう

化銀杏

泉 鏡花

「文芸倶楽部」1896(明治29)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,197 字 · 54 页

青空文庫

考えてみろ。お前は今までに人情の上から吾に数え切れない借があろう。それをな、その負債をな。今吾に返すんだ。吾はどうしても取ろうというのだ。」

いと恐しき声にもおじず、お貞は一膝乗出して、看病疲れに繕わざる、乱れし衣紋を繕いながら、胸を張りて、面を差向け、

「旦那、どうして返すんです。」

「離縁しよう。いまここで、この場から離縁しよう。死にかかっている吾を見棄てて、芳之助と手を曳いて、温泉へでも湯治に行け。だがな、お前は家附の娘だから、出て行くことが出来ぬと謂えば、ナニ出て行くには及ばんから、床ずれがして寝返りも出来ない、この吾を、芳之助と二人で負って行って、姨捨山へ捨てるんだ。さ、どちらでも構わない。ただ、(人の妻たる者が、死にかかってる良人を見棄てた。)とこういうことが世間へ知れて、世の中の者がみんなその気でお前に附合えば、それで可い、それで可い。ちっとは負債が返せるのだ。

しかし、これはお前には出来ぬこッた。お前は世間体というものを知ってるから、平生、吾が健全な時でも、そんな事はにも出さないほどだ。それが出来るくらいなら、もう疾くに離別てしまったに違いない。