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きたのしょうじょ

北の少女

小川 未明

「童話文学」1928(昭和3)年9月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,032 字 · 6 页

青空文庫

「わたしには、なんにも見えはしないわ。」

彼女は、こういいました。海の上の空は、雲切れがして、青いところは、そこにも海があるように、まったく海の色と同じかったのであります。

「あちらを見ていてごらん、いまになにか見えるから……。」と、少年は、いいました。

「もうすこしたつと、新潟の方から、汽船がくるわ。まだ、黒い煙も見えやしないわ。」

彼女は、風に吹かれながら立っていましたが、やがて、自分もまた砂の上へすわったのです。そして、やはり海の方を見ていました。

「僕は、なにかの雑誌で見たんだよ。黒い海坊主が、にょっきりと波の上から、頭を出したのを……。いんまに、海坊主が、あちらの沖へ見えるかもしれない。」と、少年は、いいました。

彼女は、少年の顔をなつかしげに見あげて、

「その雑誌見たいけど、いま持っているの……。」

「持っていない。」

「泊まっている家にあるの?」

「東京に……。」

少年は、東京という言葉を口にすると、帰る日が迫ったということにすぐ気がつきました。ここへきてからあまり思い出さなかった、にぎやかな景色が、ありありと目に浮かんだのであります。自動車や、電車の通っている広い通りは、まだ暑そうに、日がてらしている、人間の姿が小さなありのように、その間に動いている有り様などが想像されたのでした。