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きたのしょうじょ

北の少女

小川 未明

「童話文学」1928(昭和3)年9月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 3,032 字 · 6 页

青空文庫

「兄さん、あの女は、なかなか帰っていかないのだよ。」と、弟は、兄をふり向いていいました。

彼は、その女がなにをしているのだろう? と、だまって見ていると、そのうちに女は、かごをかついだまま、門から往来の方へ出てゆきました。

二人は、奥へはいって、このことを家の人たちに話しますと、

「庭の木戸は、しめておくのですよ。」と、姉さんが注意されたのです。

少年は、庭へ出て、先刻女が、じっと目を落としていた垣根のあたりを見ると、そこには、水盤が置いてあって、いつか北の方の海岸へいったとき、あの少女が拾ってくれた貝がらや、石が中にはいっていて、いまも美しく見えたのでした。

彼は、思わず、はっとしました。

「いまの女は、どちらへいったろう?」

こう叫ぶと、門の外へ走り出ました。けれど、だいぶ時がたっていたから、わかろうはずがありません。むなしく、水盤の前へもどると、彼は、もしや彼女ではなかったかと、いい知れぬ悲しさにおそわれたのでありました。