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じゅうはちじょうおつ

十八条乙

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1962(昭和37)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,127 字 · 26 页

青空文庫

そんなとき母は仏間へこもり、あやは黙って忍び泣くばかりであった。五十日が過ぎると少し気がしずまり、彼は禅の書物を読み耽ったり、坐禅をするようになった。巻紙を縦にして「薬病相治」と書き、これを柱に貼ったのに向って坐るのである。どういう意味かとあやがたずねたら、なんの意味もないと庄兵衛は答えた。

「永平寺で参禅したとき、これを公案にもらったんだ」と彼は云った、「答案はできずじまいだったがね、こんどはたっぷり暇があるから、なんとか片をつけてみるつもりだ」

百日目ぐらいにまた荒れる時期があり、十日ばかりは側へも寄れないような状態が続いた。

「お父さまがあの世で、それみたことかと仰しゃっているでしょう」と母は泣きながら云った、「そんなにみれんな、とり乱したまねをするのも、みなこの母があまやかして育てたからです、いまになってそれを後悔しようとは思いませんでした」

「永蟄居の味がどんなものかわかっても」と庄兵衛は云った、「父上はなお、それみろと仰しゃるとお思いですか」

けれども彼はすぐにあやまり、これからは慎みますと誓った。

日の経つにしたがって、庄兵衛と妻とのあいだに微妙な感情が生れた。