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じゅうはちじょうおつ

十八条乙

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1962(昭和37)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,127 字 · 26 页

青空文庫

伊原にそのことを告げると、却って不安がましたようすで、すぐにもこの城下から出たいと云いだした。

「傷は縫ったから、あとは膏薬とさらしの取替えだけすれば充分だ」と伊原は云った、「そうでなくとも、城下を出てから必要なら医者にかかれる、今夜のうちにぬけだそう」

伊原はそう主張してきかなかった。そこでその夜半、庄兵衛は伊原を背負い、必要な金と品物の包をあやが持って、裏木戸から家を出た。夜空は晴れて星がいちめんに見えたが、地面は雪が五寸くらいも積っているため、木戸を出たところで小川にはいり、流れの中を地蔵橋までいった。流れは早いが水は浅く、底は小石まじりの砂だから、あるくのに苦労はなかったが、伊原を背負っている庄兵衛は、重いのと緊張とでへばってしまい、躯じゅうに冷汗をかいた。――その橋には名がない、すぐ傍らに地蔵堂があるので、俗に地蔵橋と呼ばれているのだが、庄兵衛はその地蔵堂で伊原をおろし、納屋町へ駕籠をたのみにいった。その駕籠屋の弥右衛門というのは、もと西条家の下僕を勤めていたもので、いま勤めている加助はその伜であった。事情は話せないが極秘でたのむと云うと、この弥右衛門の首でも差上げましょうかと笑い、どんな理由にしろ秘密は守ると誓った。