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なんきんむしさつじんじけん

南京虫殺人事件

坂口 安吾

「キング 第二九巻第五号」1953(昭和28)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,660 字 · 26 页

青空文庫

「ここに五十五個の南京虫がある。五十四は奈々子の家からでてきたが、一ツは陳の邸内の犯人がとび降りた地点で拾ったものだ。どれがそれか判るかね」

「判るわ。腕輪のついてるのがそれよ」

「そうだ」

次に父は被害者の現場写真をとりだして、娘に示した。

「この写真を見てごらん。なにか気のつくことはないかね」

それは安らかに死んでいる奈々子の上半身であった。注射をうたれて死んだのだから、左の腕は肩の近くまで袖がまくれているが、それ以外は特に変ったこともない。

「特に気のつくことって、なさそうじゃないの」

「では、次に、これだ」

父は証人の証言をとじたものを開いて、一ヵ所を探しだした。

「ここを読んでごらん」

それは附近の時計商の証言であった。それによると、当日の午すぎに奈々子が南京虫を一ツ売りにきた。売った金で、今度は時計の腕輪を買って戻ったというのだ。時計を売ったから、むしろ腕輪の不要品が一ツふえた筈なのに、腕輪を買って戻ったから、甚だ奇異に思ったと時計屋は語っているのである。

「そうねえ。時計屋さんはフシギがったでしょうね」

「お前はフシギじゃないのか」

「だって、彼女は持たないから買ったんでしょうね」