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なんきんむしさつじんじけん

南京虫殺人事件

坂口 安吾

「キング 第二九巻第五号」1953(昭和28)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,660 字 · 26 页

青空文庫

吠えられてみると、四隣遠近犬だらけ。特に一ツの犬の声に注意のできない状態であった。

「まだ八時だから、たのんで邸内を調べさせてもらいましょう。陳という中華人の家ですから、ちょッとうるさいかも知れませんがね」

表門へまわって案内を乞う。門番の小屋があって、中年の日本人の下婢が顔をだした。奥の本邸とレンラクの後、案外カンタンに庭内の捜査を許してくれたが、なるほど入口には物凄いドーベルマンとシェパードがいて、一足はいると跳びかかる構えで睨んでいる。

「その犬をつないでくれませんか」

「ええ、いま、つなぎますよ」

「ずッと放しておいたんですか」

「ええ、そう。日が暮れると、毎晩放しておくんですよ」

「すると、奴さん、やられてるな」

ところが、庭をくまなく捜したけれども、男の姿はどこにも見えない。犬と格闘した跡もない。塀をとび降りた場所にいくらか乱れが目につくだけだ。

「オヤ、なんでしょうね」

懐中電燈で執念深く捜しまわっていた百合子は、男がとび降りた地点の木の根に、小さな光るものを見つけて取りあげた。

「金の腕時計だわ。婦人用の南京虫。男が南京虫を腕にまくかしら?」

奇妙な謎の拾い物であった。