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なんがをかくはなし
南画を描く話
中谷 宇吉郎
「中央公論」1941(昭和16)年7月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,968 字 · 24 页
この蟹は螯脚がむやみと大きく、それが小さい甲羅から二本ぬっと出ている姿は、まるで団子に丸太をつきさしたような恰好である。四本の歩脚は、これがまた全く釣合というものを無視した細いもので、妻楊子を両側に四本ずつさしたような始末である。一体こういう馬鹿げた形のものが、生きていることさえ不思議なのに、実際に南海の磯のほとりに地質年代の昔からずっと生存を続けて来ているということは、全く論外の沙汰である。こういう形が一番生存に有利だとはどうしても考えが及ばない。しかし其処にはやはり何か本当のものがあるらしく、なるべく特徴を現すようにと忠実に描きあげて見ると、やはり蟹の化物には見えなくて、奇妙な形の蟹に見えるところが面白かった。
この蟹の怪奇な面影は、勿論その巨大な螯脚にある。そして螯の恐ろしく力強い形がそれに或る美しさを附与している。その力を表現するためには、うんと墨を重ねて濃くする必要があるらしい。それで今度は墨の重ね方の研究を必要とすることになった。
前に寺田先生の墨流しの研究で、水面に墨膜を作っておいて、その真中に第二の墨滴を落してやると、その墨が前の墨膜上に一様に拡って行くという実験がされてある。