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はるかなたび
原民喜戦後全小説
原 民喜
原民喜『原民喜戦後全小説』。同一底本的分册已合并为一书。收入:遥かな旅、吾亦紅、忘れがたみ、翳、曲者、西南北東、昔の店、雲の裂け目。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 60,577 字 · 124 页
霜の宿
門
おまえの嘆き、歓び、背の恰好をのこしている椅子。
霜の宿
私は十年あまり住み慣れた、この借家を近いうちに引上げようかと思っていた。寒い夜半、ふと六畳の方の窓辺にある木瓜の木と芙蓉の木が思い出された。あの木も今はみんな落葉して裸木になっているのだが、毎年春さきには木瓜の木が朱い蕾をもち、厚ぼったい花をひらいたし、秋になると芙蓉の淡い花が、つぎつぎに咲いては墜ちて行った。そして、木瓜の花も芙蓉の花も、ある時のある気分の、亡妻の面影に似かようているのであった。そう思うと、窓辺にある裸木の姿が頻りと気に懸った。
翌朝窓辺に立って、しみじみと眺めれば、ひどい霜に土は歪んで、木瓜も芙蓉も寒々としている。
さればこそ荒れたきままの霜の宿
ふと、芭蕉の句が思い出されたのである。
門
見たこともない土地の夕暮であった。若い男がとぼとぼと砂の道を歩いて行った。糠のような砂は男の踵を没し、一足ごとに疲れは加わっていた。それでも男は歩いて行かなければならなかった。炎暑のほとぼりをもった空には低く雲が迷ってい、行手は茫漠として果しもないようであった。
若者は立留まって、ふと、