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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「なるほどなるほど続いておりますな。そうしてそれからどうしましたな?」「駕籠から女を引き出しました」「さっき聞こえたは女の悲鳴、これはいかさまごもっとも。駕籠にいたのは女でござろう」「いやそればかりではございません。女の証拠はこれでござる」

平八は雪の上を指差した。たびをはいた華奢な足跡が、幾個か点々とついていた。

「ははあなるほど、女の足跡だ。が、子供の足跡ともいえる」一閑斎は呟いた。

「よろしい、それではもう一つ、動かぬ証拠をお目に掛けよう」平八は懐中へ手を入れると、さっき拾った黒い物を、一閑斎の前へ突き出した。

「おやおやこれは女の頭髪……」

「根もとから一太刀できり落とした、刀の冴えをご覧じろ。きり手は武辺者に相違ござらぬ。しかも非常な手練の武士だ。……ところでその髪の髷の形を、一閑老にはご存知かな?」「勝山でなし島田でなし、さあ何でござろうな」「その髷こそ鬘下地でござる」「鬘下地? ははアこれがな」「したがって女は小屋者でござる。女義太夫か女役者でござる」「で、その女はどうしましたな? 締め殺されて川の中へでも、投げ込まれたのではありますまいかな?」