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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
「では、いよいよ人違いだな!」
「うん、そうだ、気の毒ながら」
「それだのに貴様は俺の話しを、黙ってしまいまで聞いてしまったな!」
「むやみとお前が話すからよ。俺は幾度もとめた筈だ」
「ふうむ、なるほど」と呻くようにいうと、九郎右衛門は眼を据えた。短銃を持った右の手がソロリソロリと上へ上がった。
「では、貴様は、生かしては帰せぬ!」
「そうか」と銀之丞は冷淡に「よかろう、一発ドンとやれ」
ピッタリ短銃の筒口が、銀之丞の胸へ向けられた。絶息しそうな沈黙が、分を刻み秒を刻んだ。
助太刀をしてくださるまいか
と、ピストルがソロソロと、下へ下へと下ろされた。
「そんな筈はない。能役者ではあるまい」
「何故な?」と銀之丞は平然ときいた。
「素晴らしい度胸だ。能役者ではあるまい」
「嘘はいわぬ。能役者だ」
「そうか」
と九郎右衛門は考えながら、
「無論剣道は学んだろうな?」
「うん、いささか、千葉道場でな」
「ははあ、千葉家で、それで解った」
九郎右衛門は眼をとじた。どうやら考えに耽るらしい。と、パッと眼を開けると、にわかに言葉を慇懃にしたが、
「いかがでござろう今夜のこと、他言ご無用に願いたいが」