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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
「怪しい怪しい」
と、銀之丞は、いよいよその眼をそばだてた。
しかしこれらはよい方であった。そのうちとうとう銀之丞は、恐ろしいことを発見した。
というのは他でもない。四つの出邸を繋いでいる廊下が、十字形をなしていることであった。
「おおこれは十字架の形だ!」
つづいて連想されたのは、ご禁制吉利支丹のことであった。
「ううむ、それではこの邸は、邪教の巣窟ではあるまいか」
さすがの彼もゾッとした。
「これは大変だ。逃げなければならない」
しかし逃げることは出来なかった。
出邸にこもった数十人の者が、夜も昼も警戒していた。
「ああこれこそ自縄自縛だ。出邸に人数を配ったのは、他でもないこの俺だ。その人数に見張られるとは、なんという矛盾したことだろう」
止どまっていることは破滅であった。しかし脱出は不可能であった。ではいったいどうしたらいいのか?
銀之丞の様子の変ったことに、彼らが気づかない筈がない。
ある夜丑松と九郎右衛門とが、九郎右衛門の部屋で囁いていた。
何をいったい囁き合ったのか? 何をいったい相談したのか? それは誰にもわからなかった。とはいえ、いずれ恐ろしいことが、囁きかわされたに相違ない。