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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
その証拠にはその夜以来、銀之丞の姿が見えなくなった。空へ消えたのか地へ潜ったのか、忽然姿が消えてしまった。
しかも邸内誰一人として、それを怪しんだものがない。もっとも彼らはその夜遅く、金属製の大きな戸が、深い深い水の底で、重々しく開くような音を聞いた。
が、誰一人それについて、噂しようともしなかった。
で、邸内は平和であった。無為に日数が経って行った。
全く不思議な邸ではある。
だが銀之丞はどうしたのだろう? いずれは恐ろしい運命が、彼を見舞ったに相違ない。はたして生きているだろうか? それとも死んでしまっただろうか? 死んだとしたら殺されたのであろう。
可哀そうな彼の運命よ!
だが私の物語は、ここから江戸へ移らなければならない。
家斉将軍と中野碩翁
赤い格子に黒い船
ちかごろお江戸は恐ろしい
こういう唄が流行り出した。
十数年前にはやった唄で、それがまたもやはやり出したのであった。
恐ろしい勢いで流行し、柳営にまで聞こえるようになった。
時の将軍は家斉であったが、ひどくこの唄を気にかけた。
「不祥の唄だ、どうかしなければならない」
こう侍臣に洩らしさえした。