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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

一文字に結んだ唇の端には、強い意志さえ窺われた。昔取った杵柄とでもいおうか、調べ方は手堅くて早く、屈んだかと思うと背伸びをした。膝を突いたかと思うと手を延ばし、何か黒い物をひろい上げた。つと立ち木の幹を撫でたり、なお降りしきる雪空を、じっとしばらく見上げたりした。堤の端を遠廻りにあるき、決して内側へは足を入れない。やがて立ち上がると雪を払ったが、片手で提灯の弓を握り、片手を懐中で暖めると、しばらく佇んで考えていた。提灯の光の届く範囲の、茫と明るい輪の中へ、しきりに降り込む粉雪が、縞を作って乱れるのを、鋭いその眼で見詰めてはいるが、それは観察しているのではなく、無心に眺めているのであった。

「疑惑」と「意外」のこの二つが、彼の顔に現われていた。

「登場人物は締めて五人だ」彼は静かにやがていった。「二人は駕籠舁き、一人は武辺者、そうして一人は若い女……」

「玻璃窓」平八の科学的探偵

「そうして残ったもう一人は?」一閑斎が側から聞いた。

「その一人が私の苦手だ」

「ええお前様の苦手とは?」

「……どうも、こいつは驚いたなあ。……」平八はなおも考え込んだ。

「それじゃもしや鼠小僧が?」