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ひまわりのめ

向日葵の眼

野村 胡堂

「少女倶楽部」1929(昭和4)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,919 字 · 18 页

青空文庫

一 麗子の嘆き

一 麗子の嘆き

「あら、麗子さん、どうなすったの」

「あッ、加奈子さん」

「近頃学校へもいらっしゃらないし、みんなで心配して居てよ、――それに顔色も悪いわ、どうなすったの本当に」

「困った事が起ったの、加奈子さん、私どうしたらいいでしょう」

加奈子は、お使いに行った帰り上野の竹の台で、お友達の麗子にバッタリ出逢ったのでした。

麗子は、加奈子と同じ年の十三、今年女学校へ入ったばかりですが、小学校からズッと親しいお友達です。

「困った事って、何んな事なの、聞かして頂戴、――ネ」

「大変な事なの、お母様が見えなくなったの」

「エッ」

加奈子は、自分の耳を疑うほど驚きました。麗子の母親なら、松井理学博士の未亡人で、麗子によく似た物静かな優しい方、加奈子もよく知って居ります。

「何時? 何うして、――もっと詳しく話して頂戴――」

加奈子はせっかちに問いかけましたが、麗子は返事の代りに、両方の袖を顔に当てて、往来に立ったまま、さめざめと泣き出してしまいました。

陽は少し昼を廻りましたが、公園の中は、あまり人通りもありません。

咽び泣く麗子を扶けて、深い木立の中のロハ台に陣取った加奈子は、涙の隙から、漸くこれだけの事を聞きました。