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『わがはいはねこである』じょうへん

吾輩は猫である

夏目 漱石

一只没有名字的猫,蹲在主人身边看尽人间百态,吐槽起来比人类还犀利。跟着它的眼睛,你会发现这个世界有多荒唐又有趣。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 322,123 字 · 643 页

青空文庫

いよいよ鼠ではない。人間だ。この深夜に人間が案内も乞わず戸締を外ずして御光来になるとすれば迷亭先生や鈴木君ではないに極っている。御高名だけはかねて承わっている泥棒陰士ではないか知らん。いよいよ陰士とすれば早く尊顔を拝したいものだ。陰士は今や勝手の上に大いなる泥足を上げて二足ばかり進んだ模様である。三足目と思う頃揚板に蹶いてか、ガタリと夜に響くような音を立てた。吾輩の背中の毛が靴刷毛で逆に擦すられたような心持がする。しばらくは足音もしない。細君を見ると未だ口をあいて太平の空気を夢中に吐呑している。主人は赤い本に拇指を挟まれた夢でも見ているのだろう。やがて台所でマチを擦る音が聞える。陰士でも吾輩ほど夜陰に眼は利かぬと見える。勝手がわるくて定めし不都合だろう。

この時吾輩は蹲踞まりながら考えた。陰士は勝手から茶の間の方面へ向けて出現するのであろうか、または左へ折れ玄関を通過して書斎へと抜けるであろうか。――足音は襖の音と共に椽側へ出た。陰士はいよいよ書斎へ這入った。それぎり音も沙汰もない。

吾輩はこの間に早く主人夫婦を起してやりたいものだとようやく気が付いたが、さてどうしたら起きるやら、一向要領を得ん考のみが頭の中に水車の勢で廻転するのみで、何等の分別も出ない。