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『わがはいはねこである』じょうへん

吾輩は猫である

夏目 漱石

一只没有名字的猫,蹲在主人身边看尽人间百态,吐槽起来比人类还犀利。跟着它的眼睛,你会发现这个世界有多荒唐又有趣。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 322,123 字 · 643 页

青空文庫

昔し或る学者が何とかいう智識を訪うたら、和尚両肌を抜いで甎を磨しておられた。何をこしらえなさると質問をしたら、なにさ今鏡を造ろうと思うて一生懸命にやっておるところじゃと答えた。そこで学者は驚ろいて、なんぼ名僧でも甎を磨して鏡とする事は出来まいと云うたら、和尚からからと笑いながらそうか、それじゃやめよ、いくら書物を読んでも道はわからぬのもそんなものじゃろと罵ったと云うから、主人もそんな事を聞き噛って風呂場から鏡でも持って来て、したり顔に振り廻しているのかも知れない。大分物騒になって来たなと、そっと窺っている。

かくとも知らぬ主人ははなはだ熱心なる容子をもって一張来の鏡を見つめている。元来鏡というものは気味の悪いものである。深夜蝋燭を立てて、広い部屋のなかで一人鏡を覗き込むにはよほどの勇気がいるそうだ。吾輩などは始めて当家の令嬢から鏡を顔の前へ押し付けられた時に、はっと仰天して屋敷のまわりを三度馳け回ったくらいである。いかに白昼といえども、主人のようにかく一生懸命に見つめている以上は自分で自分の顔が怖くなるに相違ない。ただ見てさえあまり気味のいい顔じゃない。