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『わがはいはねこである』じょうへん

吾輩は猫である

夏目 漱石

一只没有名字的猫,蹲在主人身边看尽人间百态,吐槽起来比人类还犀利。跟着它的眼睛,你会发现这个世界有多荒唐又有趣。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 322,123 字 · 643 页

青空文庫

吸い取られた鼻の膏が丸るく紙の上へ浮き出した。いろいろな芸をやるものだ。それから主人は鼻の膏を塗抹した指頭を転じてぐいと右眼の下瞼を裏返して、俗に云うべっかんこうを見事にやって退けた。あばたを研究しているのか、鏡と睨め競をしているのかその辺は少々不明である。気の多い主人の事だから見ているうちにいろいろになると見える。それどころではない。もし善意をもって蒟蒻問答的に解釈してやれば主人は見性自覚の方便としてかように鏡を相手にいろいろな仕草を演じているのかも知れない。すべて人間の研究と云うものは自己を研究するのである。天地と云い山川と云い日月と云い星辰と云うも皆自己の異名に過ぎぬ。自己を措いて他に研究すべき事項は誰人にも見出し得ぬ訳だ。もし人間が自己以外に飛び出す事が出来たら、飛び出す途端に自己はなくなってしまう。しかも自己の研究は自己以外に誰もしてくれる者はない。いくら仕てやりたくても、貰いたくても、出来ない相談である。それだから古来の豪傑はみんな自力で豪傑になった。人のお蔭で自己が分るくらいなら、自分の代理に牛肉を喰わして、堅いか柔かいか判断の出来る訳だ。