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るそんのつぼ

呂宋の壺

久生 十蘭

「オール讀物」1957(昭和32)年3月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,375 字 · 36 页

青空文庫

といい、大阪の薩摩屋敷にあった弓矢鉄砲、玉薬のはてまで、軍道具を残らず船に積んで帰った。

吉之丞は、当然、大阪城に立籠り、東軍を迎えて花々しい一戦に及ぶのだろうと推量していたが、それらしいこともないので意外の感にうたれた。聞きあわせたところ、義弘公は秀頼公に、このうえは籠城のお覚悟を、と申しあげると、秀頼公は、籠城までして戦うことはない。島津も、早々に国表へ引きとるようにとつれないお返事だったということだった。

これで秀頼公という方の底が知れた。たった一度の手合せで腰が砕けるようでは、なんのために徳川に戦争をしかけたのかわからない。君公が飛ぶようにして帰国されたのは、秀頼公に愛想をつかし、薩摩の領国で一と合戦するつもりなのだろうと、咄嗟の才覚で武具運送の手配をしたわけだが、それはとんだ見込みちがいで、君公は剃髪して隠居し、家康に誓詞を送って、ひたすら恭順の意をあらわしていられる。戦争の沙汰どころか、国中、湿りにしめって露もしとどのありさまだった。

その後、恩赦の沙汰があって、三男、家久をもって本領安堵したが、家康公への遠慮から、諸事、控え目に、父の代からつづいた南蛮貿易の後援も、自然にとりやめになったので、吉之丞は郷里の山川の津に帰って、トカラ、琉球の物産回漕をやっていた。