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るそんのつぼ
呂宋の壺
久生 十蘭
「オール讀物」1957(昭和32)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,375 字 · 36 页
島津はどういう無理でも聞かなければならぬ危うい境界にいるのだから、あるものなら喜んで差しだそうが、生憎と、そんなものは持合せない。松浦にも、牧野にも、出雲の松平にも、およそ呂宋の壺を所蔵する向きへ礼をつくして頼んでみたが、こればかりはと、誰も話に乗ってくれない。
助左衛門さえ堺にいたら、たやすく事が運ぶのだろうが、ならぬことをねがっても仕様がない。お前は、長年、南洋を渡り歩いて、国々の事情に通じているわけだから、ご苦労だが、呂宋まで壺をとりに行ってもらうことにした。
「それについて、ぬしに見せておくもんがある」
拙斎は床の間の木箱の蓋をはらって茶壺のようなものを出し、書院窓のそばの机の上に据えた。
丈は一尺ほどで、形はやや平目。茶釉に薄い鶉斑があり、アッサリとして軽い出来で、底がすこし凹んでいる。土師物と陶物の間を行ったような見馴れる壺であった。
「これは博多の神屋宗湛から借りた真壺だ。よく似せてあるが、呂宋ではない。真物の真壺は、もうすこし茶の色が深く、いちめんに鶉斑が出て、揚底になっている。呂宋壺の上物は蓮華王と清香真壺……蓮華王は、壺の肩の蓮華の花の中に王という字がある。