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あづまばし

問はずがたり・吾妻橋 他十六篇

永井 荷風

永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页

青空文庫

あなたは御身寄の方ですか。」

道子は葬られた者の娘で、東京で生活をしているのだと答え、「お墓が無いのなら、ちゃんとした石を立てたいんですが、そうするにはどこへ頼んだら、いいのでしょう。」

「それはこの寺で知っている石屋がありますから、そこへ頼めばすぐこしらえてくれます。」

「それじゃ、わたくしお頼みしたいんですけど、石は一体どれ程かかるものでしょうか。」

「そうですね、その辺に立っているような小さな石でも、戦争後は物価がちがいますからな、五、六千円はかかるつもりでないと出来ません。」

道子は一晩稼げば最低千五、六百円になる身体。墓石の代金くらい更に驚くところではない。冬の外套を買うよりも訳はない話だと思った。

「今持合していませんけど、それくらいで宜しいのならいつでもお払いしますから、どうぞ石屋へ、御面倒でもお話して下さいませんか。お願い致します。」

坊さんは思い掛けない好いお客と見たらしく、俄に手を叩いて小坊主を呼び茶と菓子とを持って来させた。

道子は母のみならず父の墓も――戦災で生死不明になった為め、今だに立てずにある事を語り、母の戒名と共に並べて石に掘って貰うように頼み、百円札二、三枚を紙に包んで出した。