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あづまばし
問はずがたり・吾妻橋 他十六篇
永井 荷風
永井荷風『問はずがたり・吾妻橋 他十六篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:吾妻橋、浅草むかしばなし、亜米利加の思出、或夜、噂ばなし、買出し、心づくし、細雪妄評、出版屋惣まくり、にぎり飯、冬日の窓、墓畔の梅、羊羹、老人、渡鳥いつかへる。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 75,586 字 · 159 页
その葉を舒している。常磐木の茂りの並び立つ道の彼方から※(「奚+隹」、第3水準1-93-66)の声がきこえる。
わたくしは永年住み慣れた東京の家にいた時にも、毎年小春の日光に山吹の花の返咲きするのを見れば、いつも目新しく祖国の風土と気候とに関して、言い知れぬ懐しさと、それに伴う感謝の念を覚えて止まなかった。日本の冬の明さと暖さとはおそらくは多島海の牧神をしてここに来り遊ばしむるもなお快き夢を見させる魅力があったであろう。柿の葉は花より赤く蜜柑の熟する畠の日あたりにはどうかすると絶えがちながら今だに蟋蟀の鳴いている事さえあるではないか。
○
過去日本の文学は戦闘の舞台として、屡伊豆の山と海とをわれわれに紹介している。その事実をわたくしは疑わない。しかし今わたくしが親しく窓から見る風景と、親しく身に感じる気候とは、かくの如き過去の記録をして架空な小説のようにしか思惟させない。それほどまでに、風景は穏に気候は軟かなのだ。わたくしは如何なる神秘な伝説をも、(もし在ったなら、)それを信ずるに躊躇しないであろう。美の女神エヌスの海上出現を希臘の海から、伊豆の浜辺に移し説くものがあっても、強ちそれを荒唐無稽だとは言わぬであろう。