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うそアつかねえ
嘘アつかねえ
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1950(昭和25)年12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,523 字 · 24 页
そして「強いの」を注文して、ふと信吉をみつけて頓狂な声をあげた。信吉もその声にすぐ答えた。古い友達にでもめぐり会ったような、ふしぎな親しさが感じられ、出るのを思いとまって彼も「強いの」を取った。
「おらあ旦那のこたア覚えてる、嘘アつかねえ、ちゃんと覚えてるよ、男は哀れなもんだッてね……旦那はそう云った」
「それはおまえの云ったことだろう」
「へっ、御冗談、ふざけちゃアいけねえ」
松はその晩は社会批評ぬきで、いきなり彼の本論をもちだした。信吉を女房にあまい男だと云い、信吉に限らず、一般に世間の男は女房にあまくて、そのだらしのなさは見られたものではないと云った。
「女ッてえものはね、日に二三度は横ッ面をはっとばしてやらなくッちゃあいけね、拳骨でも平手でも、薪ざっぽでも構やしねえ、ぱんぱんッてね、……遠慮も会釈もねえ、まずいせえよくぶっくらわすこッた、ぱんぱんッてね、おらあその式だ、……やい阿魔ッ酒を買って来い、釜の下あ焚きつけろ、すべた野郎、来ておれの足を洗え、……おらあいつもこの式さ」
「旦那は本気にしねえかもしれねえ」松は強いのをひと口飲んで続けた、「――だがね、旦那、おれがこんな式をやるにゃア、それ相当のわけがあるんだ、人間が酒を飲んで酔うには、酔うだけのわけがあるように、嘘アつかねえ、おらあね、……おれの父