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うそアつかねえ

嘘アつかねえ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1950(昭和25)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,523 字 · 24 页

青空文庫

狡猾の勝つ世の中では、こういう人間は一種の敗者であろう。勘定の催促でも強くはできない、割の悪い仕事はみな押付けられる。彼にはすべてがあとまわし、取るものはびしびし取立てられる。そしてしぜん生活はいつも苦しく、いつまでも苦しく、彼は溜息をつくばかりである。……信吉には今、その途方にくれたような、力のない溜息が聞えるようであった。

「おふくろは、気の勝った女だったろう、生れつきの性分はしようがねえ、だが仮にも、稼ぎにいく亭主に、飯を炊かせる、水を汲ませる、ときには洗濯までさせるッてなあ、……こいつはおらあ褒めたこッちゃねえと思う、旦那のめえだが、こいつだけあおらあはっきり云いてえンだ」

松はこう云って眼をきらきらさせた。相変らず舌ったるいが、顔にはかなりな怒りの表情が現われていた。

「こんな暮しは御免だ、飽き飽きした、……おふくろはいつもそう云ってた、満足に食いてえ物も食えねえ、着てえ物も着られねえ、おまえさんなんかと一緒になるンじゃアなかった、……こいつを口癖のように云った、いつも頭が痛え、腰が痛え、眩暈がする腹がやめる、疲れて起きられねえから、おまえさん起きて釜の下を焚きつけて呉れ、……そして、そのくせ夜中になれば、父をそっと寝かしたこたアねえ、むりむてえかかってくんだ、否も応もねえ、むりむてえ、文句なしな