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しじゅうふわく
四十不惑
佐々木 邦
「講談倶楽部」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,633 字 · 26 页
どうせ矩を越えようなんて思召はないんですから」
「ないんだ。絶対にないんだ」
「頭の中の鋲が一つゆるんでいるだけですからね」
「厳しいな」
「私、隅に置けないでしょう。どう?」
「隅に置けない。感心した」
茶道の講習は秋から冬に入って、正月に及んだ。いつまでも続くことを僕も妻も望んでいたが、そこへ一つの事件が起った。これが僕の為めには翻然として自ら省る切っかけになった。
日曜の朝、もう来る頃だと思って心待ちしていたら、小柴さんが血相を変えて玄関へ駈け込んだのである。
「奥さま、奥さま」
「まあ! 小柴さん、どうなさいましたの?」
「変な人が駅からついて来ました。電車の中からよ。こわくて/\」
「どんな人?」
「若い人です。御門まで来ましたからまだその辺にいるかも知れません」
僕は直ぐに外へ出て見た。ベレー帽を被った青年がポカンとして門札を仰いでいた。品のいゝ男で、凶悪のものとは考えられなかったが、
「君はそこに何をしているんですか?」
と訊いて見た。
「失礼しました。或は誤解を招いたかと思って恐縮しています」
「それじゃ君だね、今こゝへ入った娘さんをつけて来たのは」
「はあ。