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よっかのあやめ

四日のあやめ

山本 周五郎

「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页

青空文庫

「同じことだ、――どうする」

「もちろん断わった」

「やめないというのか」

千世が茶を持って、入って来ようとした。

「茶は要らない」と重三郎が云った、「そこを閉めて向うへいっていてくれ」

千世は良人を見て、それから襖を閉めて去った。

「やめないというのか」と重三郎は主税介を見た、「こんなに世評が喧しくなり、精明館では誰も稽古を受けないというのに、それでも師範の席にかじりついているというのか」

「精明館師範の役は殿から仰せつけられたものだ」と主税介は答えた、「殿から解任されるか、正当な理由のない限り、この役を勤めるのは私の義務だと思う」

「わかった」と重三郎は云った、「これでもう聞くことはない、千世を伴れて帰るから離別してくれ」

主税介は不審そうな眼をし、それから「そうか」というふうに唇で微笑した。

「ばかなことを云うな」

「こっちはばかどころじゃないんだ」と重三郎は云った、「おれは五大を信じていた、世間がなんといおうと、五大主税介は卑怯なまねをする男ではないと信じていた、だがおれは事実を聞いた、深松伴六からじかに聞いたんだ、あの朝早く、深松自身が此処へ知らせに来たという、刻限は六時、場所は籠崎大洲とはっきり云ったというぞ」