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よっかのあやめ
四日のあやめ
山本 周五郎
「オール読物」文藝春秋新社、1954(昭和29)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,200 字 · 38 页
「私闘、――そうだ、そのことだった」
彼女の眼は強い光りを帯びた。顔色はまだ恢復しないが、もう硬ばってもいないし恐怖も去ったようである。
「良人をゆかせてはいけない」と千世は呟いた、「私闘は武士の道に外れたことだ、そういうところへ良人をゆかせるのは、武士の妻のたしなみではない、あたしには良人に道に外れたことをさせることはできない」
千世は立って玄関のほうへいった。そして岩間勇作に、「深松伴六の来たことは黙っているように」と云った。そう云いながら、千世は初めて自分がこの家の主婦になったような、気強さとおちつきを感じた。
――あたしは法度を犯すことから主人を護った。
そういう自覚が、彼女に力と自信を与えるようであった。千世の顔は明るくなった。
時計が六時を打つとまもなく、主税介が起きた。千世が洗面の支度をして待っていると、寝衣のまま出て来た良人の躯から、濃厚な躰臭の匂うのが感じられた。
「化粧が濃すぎる」と主税介が云った、「もう少し薄く直すほうがいい」
千世は「はい」といって、房楊枝と塩の皿とを良人に渡した。そのときまた良人の躯がつよく匂い、千世は赤くなった。