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ちはゆたかなり

地は饒なり

宮本 百合子

「中央公論」1918(大正7)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 28,874 字 · 57 页

青空文庫

それが、感情の一部分なのか、理性の一面なのか、まるで解らなかったけれども、とにかく、彼女はその心持から、ほんとの人間の生活にとって、「あるべきこと」と、「あるべからざること」とが、或る程度まで判断されるようになった。

そして、いつともなく相当な言葉数を知って来た彼女は、自分のこれからを「どうしたらいいだろう」とかつて書いた心細さからは、たとい極く僅かではあったが、救われた。

一生懸命に努力して行き、正しいことから、より正しいことへと進んでさえ行けば、という希望が彼女の心のうちでだんだんと勢を得て来たのである。

「私は、鍵を与えられた。それをどう使い、どれほどの宝物を見出すかは、私にまかせられてある。それは確かだ」

いつもの洋罫紙へ赤の圏点を打って彼女はまたこう書いた。

「あの美くしい層雲を見よ。地上に咲き満ちる花と、瞬く小石と、熟れて行く穀物の豊饒を思え。希望の精霊は、大気とともに顫う真珠の角笛を吹く……」

けれども、そう書き終るか終らないうちに、苦痛の第一がやって来た。彼女は、幸福に優しく抱擁される代りに、恐ろしく冷やかに刺々しい不調和と面接し、永い永い道連れとならなければならなかったのである。