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あおいはらふじんのたいつり

垢石釣游記

佐藤 垢石

佐藤垢石『垢石釣游記』。同一底本的分册已合并为一书。收入:葵原夫人の鯛釣、青鱚脚立釣、秋の鮎、蛙を食う岩魚、河鱸遡上一考、鯨を釣る、小鰺釣、さしみ、戦場ヶ原の渓谷、早春の山女魚、釣聖伝、釣場の研究、弟子自慢、道具と餌と天候、アンコウの味、夏釣日記、冬の鯊釣、夜の黒鯛、ガラガラ釣。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,298 字 · 100 页

青空文庫

次第次第にその雲が濃くなって、丹那山の方へ押し上って行く。丹那山の頂で、濃い雲は真っ黒になって渦巻いた。遠くの沖に、ちらちらと白い波が立つ。

「いけません」

と、また若い船頭がいった。そして、長い釣糸を忙しく巻きはじめた。私等も、急いで海底から糸を手繰った。

「なれえだっ!」

これは、危険な北東の風が襲ってくるのをいうのだ。船頭のその言葉が終るか、終らぬうちに海は俄かに騒ぎ出した。雨は伴わないが、烈風が縦横に吹きはじめた。海水を、舟はどさりと一杯かぶった。私等はびしょぬれである。

山と谷と、重畳する波の間を突っきって、舟は漸く宿の下まで逃げ帰った。海の夕立は、恐ろしくもあるが快い。

そのうちに木村名人も宿へ着いた。三人で、夜の膳を囲んだ。さきほど釣ったカマスは塩焼に、小鰺はたたき膾に。その味いずれも薄にして淡、思わず小杯を過ごした。

生駒先生は六十五の齢、木村名人は寸暇もなき多忙の身、にも拘らず清閑を得、海の気を呑んで身体を鍛えんとし、釣趣の忘我に心を養わんとするのである。近年、釣技がこの人達にも理解されてきたのを想って、私はほんとうに満足にたえなかった。