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へんなおとこ
変な男
豊島 与志雄
「中央公論」1923(大正12)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页
両方を強く燃え立たして、ただどちらに就くかだけが問題です。野蛮時代は、いろんな火がごっちゃに燃えていたのですが、その火を選り分けて、純粋な焔を立てさせるのが文明です。そして肝要なのは、そのいろんな焔のどれに就くかという方向だけです。焔を弱める必要はありません。」
「それなら、ただ一つの火だけ燃やしたらいいじゃないですか。」
「それはキリスト教の云う言葉です。ギリシャの多神教ではそんなことは云いません。そしてキリスト教では、三位一体なんてことを鋭いていますが、あの神は実は人間ではなく怪物で、ギリシャの多神教の神々こそ本当の人間です。」
「それでは一層のこと、人間を止してしまった方がいいわけですね。」
「そうです。」
今井が余り無雑作に肯定したので、中村は一寸意外な顔付で口を噤んでしまった。それから多少皮肉な調子で、病院に人体解剖を見に来ないか、人の頭の割れたのより遥かに参考になるかも知れない、などと云い出した。
「そんなものは駄目です。」と今井は答えた。「死んだ身体の解剖や、麻睡された者の手術なんかは、学者にしか用のないものです。はっきりした意識を持ってるぴんぴんした人体の解剖なら、私も是非見たいと思うんですが、そんなのは、野蛮人の間にしかないでしょう。