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へんなおとこ

変な男

豊島 与志雄

「中央公論」1923(大正12)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,508 字 · 81 页

青空文庫

」

「では戦争に行かれるといいですよ。」

今井は何とも云えない嫌悪の表情をした。

「あなたの理論から云いますと、」と中村は追求した、「戦争もいいじゃないですか。」

「戦争は人を狂人になすから嫌です。」

「どうしてです?」

今井は何とも答えないで、それきり押し黙ってしまった。

「もうそんな話は止しましょうよ。私嫌だわ。」と澄子が口を出した。

中村は何と思ったか、俄に笑い出した。そして、今晩頭の割れたお化が出るなどと澄子をからかいながら、話は他の方へ外れていった。ただ今井ばかりは一口も口を利かなかった。十二時が打つと、喫驚したようにして室へ上っていった。

「十二時になって慌てて寝るなんて、今井さんの柄にもないわ。」と澄子は小声で云った。然しそれは当っていなかった。今井は室にはいったが寝もしないで、長い間考え込んでいたのである。

そしてその晩のことは、或る印象を皆に与えた。辰代は、今井の話がよく分りはしなかったが、その全体から不気味な底深いものを感じて、多少畏敬の念の交った不安さを覚えさせられた。今迄単に変人だと思っていたものが、案外根深い所から来ているのであって、まかり間違えば、善にしろ悪にしろ、どんなことを仕出来すか分らない、といったような気がした。