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なつのよのぼうけん

夏の夜の冒険

平林 初之輔

「文学時代 第二巻第九号」新潮社、1930(昭和5)年9月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,930 字 · 12 页

青空文庫

。

二人で麦酒の三四本ものんでコールビーフの一皿も食べたことと思う。とにかく一時間ほどそこで時間をすごして外へ出たのであった。

上野行も新宿行ももう終電車が通りすぎてしまって、駅員は帰り支度をしていた。

時国と私とは、橋の上に立って、冷え冷えする夜風で涼をとっていた。

すると駅の建物のうしろのつつじや熊笹のしげっている中で、何かがさがさ動いている。

――何かあそこに動いているじゃないか?

――何だろう?

二人はその方を注視した。

――何だか人間のようじゃないか?

――子供のようだね。

私たちは改札口の方へ降りていった。

――何ですか?

一人の駅員がとがめるように言った。

――あそこに子供がいるんですよ。ほらあのつつじの根本ががさがさ動いているでしょう。

――なる程。

駅員もバスケットを下げたまま引きかえした。

その駅員と私たち二人とで土手へ上がっていった。

汚い手拭地の浴衣を着た九つか十位の男の児が、剥製の蛙みたいにひょろひょろになって、つつじの株の葉陰にうずくまっていた。

子供はなかなか口をきかなんだ。

別に人見知りをするわけではないが、ひどく疲れていて口をきくのも大儀だったらしい。