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なつのよのぼうけん
夏の夜の冒険
平林 初之輔
「文学時代 第二巻第九号」新潮社、1930(昭和5)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,930 字 · 12 页
でも私たちは根気よく問いただして、この子供の家が西ヶ原にあるということだけをききとることができた。
橋の手前に交番があったので、私たちは、ほかにどうしようもないので、その子供を交番へつれていった。きまった仕事をもっている駅員はこういう悠長な仕事にいつまでもかかわりあっているわけにはいかないので、いつのまにか帰ってしまった。
――この子供が、そこの草叢の中にいたんです。家へ届けてやってほしいんですが?
――どこにいたんですか?
巡査はうるさそうに額をしかめながら問いかえした。無理もないことだ。
――あそこの土手のつつじの根元にいたんですよ。家がわからないんじゃないかと思うんです。
――あちらなら、滝野川署の管轄になっているんで。
巡査は、たった橋一つのちがいで、この厄介者をしょいこむのを拒絶する口実を見つけたらしい。
――どこの管轄か知りませんが、とにかく、この辺には、交番はここだけしかないんですから、何とか保護してやったらどうです。
――そういうわけにはいきませんね。むこうには、ちゃんと所轄署があるんだから、面倒な問題になりますからね。
――ではこの子が一人ぼっちで、夜中にこんなとこをうろうろしてても、君は所轄署がちがうからって傍観してるんですね?