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ゆうもやのなか
夕靄の中
山本 周五郎
「キング」大日本雄辯會講談社、1952(昭和27)年2月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,522 字 · 19 页
「おまえが金次をやりに来たということは、ちゃんと知らせが届いてるんだ、桐生の機屋の店から、といえばわかるだろう」
「なにを、なにを仰しゃるんだか、私にはてんでわかりません」
「おれにもわからないことがある」男は云った、「――金次が橋場一家を押え、おつやという娘の押掛け婿になったことは、あくどいやり方だ、普通の世間ならまわりが許してはおかないだろう、しかし、やくざの世界はべつだ、腕と度胸がものを云う、やくざ仲間では、無理でもあくどくっても勝つ者が勝つんだ、……おまえは堅気に戻った、そのことは機屋の番頭からよく聞いている、想いあった女を横取りされて、口惜しいだろうが、おつやはもともと博奕打の娘だし、そうなってしまえばそれで、しぜんとおさまってゆくものだ、おれも現に見ているが、どうやら波風の立つようすもない、そこへ今おまえが乗込んで、金次を刺すことができたとしても、おつやの躯が娘に返るわけでもなし、金次に代って、いきなりおまえが橋場を背負って立てもしない、悪くこそあれ、善くなることは一つもありゃあしない、どうしてそんなつまらない量見を起こしたか、おれにはそれがわからないんだ」