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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

生まれは三留野で、お島というのがその女の名だった。宿役人一同承知の上で寺にいれたくらいだから、その人とて肩身の狭かろうはずもなかったが、それでも周囲との不調和を思うかして、生前は本堂へも出なかった。世をいといながら三時の勤行を怠らない和尚を助けて、お島は檀家のものの受けもよく、台所から襷をはずして来てはその囲炉裏で茶をもてなしてくれたことを半蔵らも覚えている。亡い人の数に入ったその女のために、和尚が形見の品を旧本陣や伏見屋にまで配ったことは、まだ半蔵らの記憶に新しい。

髪結い直次のような老練な職人の腕にも、和尚の頭は剃りにくいかして、半蔵らはかなり待たされた。それを待つ間、彼は伊之助と共にその囲炉裏ばたを離れて、和尚の造った庭を歩き回りに出た。やがて十三、四ばかりになる歯の黄色い徒弟僧の案内で、半蔵は和尚の方丈に導かれた。

「これは。これは。」

相変わらずの調子で半蔵らを迎えるのは松雲だ。客に親疎を問わず、好悪を選ばずとはこの人のことだ。ことに頭は剃りたてで、僧貌も一層柔和に見える。本堂の一部を仮の教場にあててから、半蔵を助けて村の子供たちを教えているのもこの和尚だが、そういう仕事の上でかつていやな顔を彼に見せたこともない。