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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
めずらしく半蔵は隣家の伊之助にそそのかされて、その旅やつれのした易者を見に行った。古い袋から筮竹を取り出して押し頂くこと、法のごとくにそれを数えること、残った数から陰陽を割り出して算木をならべること、すべて型どおりに行なったあとで、易者はまず伊之助のためにその年の運勢を占ったが、卦にあらわれたところは至極良い。砕いて言えば、願う事の成就するかたちである。商売をすれば当たるし、尋ね物は出るし、待ち人は来るし、縁談はまとまるという。ところが、半蔵の順番になって、易者はまた彼のためにも占ったが、好運な隣人のような卦は出なかった。
その時の半蔵を前に置いて、首をひねりながらの易者の挨拶に、
「どうも、あなたが顔色の艶から言っても、こんなはずはないと思われるのですが。易のおもてで言いますると、この卦に当たった人は運勢いまだ開けずとあきらめて、年回りを畏れ、随分身をつつしみ、時節の到来を待てとありますな。これはよいと申し上げたいが、どうもそう行きません。まあ、本年いっぱいはお動きにならない方がよろしい。」
とある。
半蔵はこの易者を笑えなかった。家に戻って旅のしたくを心がける間にも、彼は易者に言われたことから名状しがたい不安を引き出された。