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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
ここまで御一新に路を開けたあの本居翁のような人さえもが多くの俗吏によってどんなふうに取り扱われているかを知って来たのも、またその間であった。
この彼も、行き疲れ、思い疲れた日なぞには、さすがに昨日のことを心細く思い出す。十一月にはいってからは旅寝の朝夕もめっきりと肌寒い。どうかすると彼は多吉夫婦が家の二階の仮住居らしいところに長い夜を思い明かし、行燈も暗い枕もとで、不思議な心地をたどることもある……いつのまにか彼はこの世の旅の半ばに正路を失った人である。そして行っても行っても思うところへ出られないようないらいらした心地で町を歩いている……ふと、途中で、文部大輔に昇進したという田中不二麿に行きあう。そうかと思うと、同門の医者、金丸恭順も歩いている。彼は自分で自分の歩いているところすらわからないような気がして来る。途方に暮れているうちに、ある町の角なぞで、彼は平素それほど気にも留めないような見知らぬ人の目を見つける。その目は鋭く彼の方を見つつあるもののようで、
「あそこへ行くのは、あれはなんだ――うん、総髪か」とでも言うように彼には感じられる。彼はまだ散切りにもしないで、総髪を後方にたれ、紫の紐でそれを堅く結び束ねているからであった。