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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
わざわざ長崎まで遠く学びに行くものは、かえって名古屋あたりの方にもっとよい英語教師のあることを知るという世の中になって来た。彼の目の前にひらけているのは、実に浅く普及して来た洋学の洪水だ。
もとよりその中には、開国以前からの洋学者ののこしたこころざしを承け継ぐ少数の人たちもないではない。しかし、ここに本も読めば筆も立つ旧幕の人の一群というものがある。それらの人たちが西洋を求める態度はすこし違う。彼らは早く西洋の事情に通じる境涯にも置かれてあって、幕府の洋書取調所(蕃書取調所の後身)に関係のあったものもあり、横浜開港場の空気に触れる機会の多かったものもある。それらの人たちはまた、閲歴も同じくはないし、旧幕時代の役の位もちがい、禄も多かったものと寡なかったものとあるが、大きな瓦解の悲惨に直面したことは似ていた。江戸をなつかしむ心も似ていた。幕末の遺臣として知られた山口泉処、向山黄村、あの人たちもどうなったろうと思われる中で、瓦解以前に徳川政府の使命を帯びフランスに赴いた喜多村瑞見なぞはその広い見聞の知識を携え帰って来て、本所北二葉町の旧廬から身を起こし、民間に有力なある新聞の創立者として言論と報道との舞台に上って来た。