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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
」
との言葉を彼は娘にも残した。
したくはできた。そこで半蔵は飄然と出かけた。戸長の旅費、一日十三銭の定めとは、ちょっと後世から見当もつかない諸物価のかけ離れていた時代だ。それも戸敷割でなしに、今度は彼が自分賄いの小さな旅だった。馬籠から妻籠まで行って、彼はお民の生家へ顔を出し、王滝行きの用件を寿平次にも含んで置いてもらって、さらに踏み慣れた街道を奥筋へと取った。妻籠あたりで見る木曾谷は山から伐り出す材木を筏に組んで流す冬期の作業のための大切な場所の一つにも当たる。その辺まで行くと、薄濁りのした日も緑色にうつくしい木曾川の水が白い花崗の岩に激したり、石を越えたりして、大森林の多い川上の方から瀬の音を立てながら渦巻き流れて来ている。
四
「老先生へも久しくお便りしない。」
野尻泊まりでまた街道を進んで行くうちに、半蔵はそんなことを胸に浮かべた。馬籠を立ってから二日目の午後のこと、街道を通る旅人もすくなくない。猿を背中にのせた旅の芸人なぞは彼のそばを行き過ぎつつある。あくせくとしたその奔走の途中にふと彼は同門の人たちの方へ思いを馳せ、師平田鉄胤の周囲にある先輩らをも振り返って見た。