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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

小さな彼女の生命が言いあらわしがたい打撃をこうむったのも、その時であった。でも、彼女はそうしおれてばかりいるわけでもない。祖母のためにと父の造った屏風なぞができて見ると、彼女はその深傷の底からたち直ろうとして努めるもののごとく平素の調子に帰って、娘らしい笑い声で父の心までも軽くさせる。

実に久しぶりで、半蔵は家のものと一緒にこんな時を送った。かねて長いこと心がけたあげくにできた隠居所向きの小屏風のそばなぞにわずかの休息の時を見つけるすら、彼にはめずらしいことであった。二月のはじめ以来、彼がその懐に筑摩県庁あての嘆願書の草稿を入れた時から、あちこちの奔走をつづけていて、ほとんど家をかえりみる暇もなかったような人である。この奔走が半蔵にとって容易でなかったというは、戸長(旧庄屋の改称)としての彼が遠からずやって来る地租改正を眼前に見て、助役相手にとかくはかの行かない地券調べのようなめんどうな仕事を控えているからであった。一方にはまた、学事掛りとしても、村の万福寺の横手に仮校舎の普請の落成するまで、さしあたり寺内を仮教場にあて、従来寺小屋を開いていた松雲和尚を相手にして、できるだけ村の子供の世話もしなければならないからであった。