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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
尾州藩にして見ると、年々木曾山から切り出す良い材木はおびただしい数に上り、同藩の財源としてもこの森林地帯を重くみていたように世間から思われがちであるが、その実、河水を利用する檜材の輸送には莫大な人手と費用とを要し、小谷狩、大谷狩から美濃の綱場を経て遠い市場に送り出されるまで、これが十露盤ずくでできる仕事ではないという。それでもなおかつ尾州藩が多くの努力を惜しまなかったというは、山林保護の精神から出たことは明らかであるが、一つには木曾川下流の氾濫に備えるためで、同藩が治水事業に苦しんで来た長い歴史は何よりもその辺の消息を語っているとも言わるる。もっとも、これは川下の事情にくわしい人の側から言えることで、遠く川上の方の山の中に住み慣れた地方の人民の多くはそこまでは気づかなかった。ただ、この深い木曾谷が昼でも暗いような森林におおわれた天然の嶮岨な難場であり、木曾福島に関所を置いた昔は鉄砲を改め女を改めるまでに一切の通行者の監視を必要としたほどの封建組織のためにも、徳川直属の代官によって護られ、尾州大藩によっても護られて来た東山道中の特別な要害地域であったろうとは、半蔵らにも考えられることであった。