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よあけまえ
夜明け前
島崎 藤村
04 第二部下
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页
この福島行きには、彼は心も進まなかった。
筑摩県支庁。そこは名古屋県時代の出張所にあててあった本営のまま、まだ福島興禅寺に置いてある。街道について福島の町にはいると、大手橋から向かって右に当たる。指定の刻限までに半蔵はその仮の役所に着いた。待つこと三十分ばかりで、彼は支庁の官吏や下役などの前に呼び出された。やがて、掛りの役人が一通の書付を取り出し、左の意味のものを半蔵に読み聞かせた。
「今日限り、戸長免職と心得よ。」
とある。
はたして、半蔵の呼び出されたのは他の用事でもなかった。もっとも、免職は戸長にとどまり、学事掛りは従前のとおりとあったが、彼は支庁の人たちを相手にするのは到底むだだと知っていた。実に瞬間に、彼も物を見定めねばならなかった。一礼して、そのまま引き下がった。
興禅寺の門を出て、支庁から引き取って行こうとした時、半蔵はその辺の屋敷町に住む旧士族に行きあい、わずかの挨拶の言葉をかわした。その人は、福島にある彼の歌の友だちで、香川景樹の流れをくむものの一人で、何か用達しに町を出歩いているところであったが、彼の顔色の青ざめていることが先方を驚かした。