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よあけまえ

夜明け前

島崎 藤村

04 第二部下

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,172 字 · 206 页

青空文庫

何卒、南殿村へはくれぐれも厚く御詫び下さるよう、小生よりは申し上ぐべき言葉も御座なく候。まずは右、御願いまで、かくのごとくに御座候。

よかれとて契りしことも今ははたうらみらるべきはしとなりにき

尚々、老母はじめ、家内のものどもよりも、本文の次第厚く御詫び申し上げ候よう、申しいで候。」

ようやく十月の二十三日に、半蔵は仲人あてのこの書きにくい手紙を書いた。書いて見ると、最初からこの縁談を取りまとめるためにすくなからず骨折ってくれた継母おまんのことがそこへ浮かんで来る。目上のものの言うことは実に絶対で、親子たりとも主従の関係に近く、ほとほと個人の自由の認めらるべくもない封建道徳の世の中に鍛えられて来たおまんのような婦人が、はたしてほんとうに不幸な孫娘を許すか、どうかも彼には気づかわれる。

「お民。」

半蔵は妻を呼んで、当時にはまだ目新しい一銭の郵便切手を二枚貼って出す前に、この手紙を彼女にも読み聞かせた。

「あなたが、もっと自分の娘のことを考えてくれたら、こんなことにはならなかった。」

お民はそれを言い出しながら、夫のそばにいてすすり泣いた。

これには半蔵も返す言葉がない。